ランニングと精進料理|水上勉 「精進百選」

以前の記事では、ジュレクの「EAT & RUN」を取り上げました。
スコット・ジュレクはウルトラマラソンの第一人者であると同時に、完全菜食主義者(ヴィーガン)でもあります。
ジュレクに影響され、ヴィーガン食を取り入れてみようとすると初めは難しいように感じたものです。
しかし日本には完全なるヴィーガン食が古来より存在していることを思い出しました。
精進料理です。
そして私は、本物の精進料理の味を知っている…。

9歳で京都の相国寺の小僧となり、11歳で等持院に移り、19歳まで小僧をつとめた作家の水上勉さんは、禅寺で教わった精進料理の数々を、1冊の本にしておられます。
ランニングと精進料理|水上勉 「精進百選」
それが「精進百撰」です。
晩年の水上さんは長野県北御牧村に住んでおられて、畑を耕し収穫をし、山へ入って土を掘り、調理をし食べて書く…そのような生活を送っておられました。
北御牧のお宅に伺った際、山芋を振舞ってくださって、皮をむいて輪切りにして両面を焼くだけで驚くほど美味しかった。
「同じ山芋でも畑で収穫されたものと野生のものとでは全く味が違う。もちろん、野生でも育った場所、畑でも土によって違う。上質な山芋は、ただ焼くだけで美味い。手をかければかけるほど、山芋本来の味は薄らいでゆく」と教えてくださった水上さん。
書くことも走ることもまた生き方に通じるものであるならば、水上さんの食生活はまさに質実そのものです。
この質実という点において、私には水上さんとジュレクとが重なって見えるのです。

本書の本編のタイトルを水上さんは「蔬食三昧」としておられます。
「蔬食」とは菜食の意ですから、まさにヴィーガンそのものです。
当初私は、精進料理やヴィーガン食に対して質素で健康的なイメージを抱いていたのですが、そうでないものも結構あります。
例えば植物油で調理したフライドポテトも立派なヴィーガン食で、ヴィーガンのファーストフード店もあるくらいです。
水上さんが紹介している精進料理にも「霰豆腐」というものがあって、これは豆腐をサイコロ状に切って胡麻油で揚げるというもの。
どちらも食べ過ぎれば不健康極まりない一品です。
結局のところ、大事なのは「必要な量」を見極めること。
油で揚げた味を愉しみたい時も、どの加減で止めておけるか、食べ方の極意とは、恐らくそこにあるのではないかと思うのです。
精進料理はまさに禅であるのですから、調理も食することも、その極意を悟るための修行なのかも知れません。
食べることも、走ることも質実でありたいものです。

さて、以下は余談なのですが…
霰豆腐は沖縄の島豆腐で作ると崩れが少なくて作りやすいようです。
小さめのフライパンにサイコロ状に切った島豆腐を胡麻油で揚げるように焼いて、軽く塩を振れば完成です。
島豆腐が手に入らなくても、白山麓のかた(堅)豆腐でも同じように調理できるはずです。
私も最近知ったのですが、沖縄の島豆腐と、福井・富山・石川の白山麓のかた豆腐が、日本の豆腐の原型だと考えられているそうです。
木綿豆腐や絹ごしなどは、地域に合わせて製法と味を変えていったものなのでしょう。
亜熱帯の沖縄と冬は雪深い白山…気候の全く異なる両地域で、変わらず昔ながらの豆腐を製造していることが何だか不思議だと感じる今日この頃です。


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