女子長距離選手の体重管理と体脂肪率

5年前の2019年12月、NHKで放送された「クローズアップ現代+」で、実業団を一度引退していた当時の西澤果穂さんがインタビューに答えていました。
インタビューの中で、西澤さんは当時の練習ノートを開きます。
女子長距離選手の体重管理と体脂肪率
厳しかった体重管理を思い出しながら「これも結構落としていた体重…」と語った数値は42.7㎏。
画像を見てわかるように、放送ではこの体重に光が当てられていましたが、私が驚いたのはその下の体脂肪率でした。
6.9%です。
家庭用の体重計で測ったとしても、体重が42.7㎏と軽量ですから、大きくずれているとは思えません。
間違いなく1桁の体脂肪率だったことでしょう。
しかしコーチは、西澤さんにさらなる減量を求めます。
女子長距離選手の体重管理と体脂肪率
こうした指示は、大きな試合に向けた調整時期ではなく日常的なものだったそうです。
体脂肪率が一桁の女性選手にさらに減量を求める…ちょっと考えにくいことです。
野口みずきさんの五輪マラソン当日の体脂肪率が7%であったことを考えると、その異様さが想像できるのではないでしょうか。
目標とする大会が近いわけでもないのに体脂肪率が一桁であったら、私なら体重を落とすことは考えません。
体脂肪率が低いことで故障するリスクを考えると、むしろ栄養面を見直し食べることを勧めるでしょう。
それに減量させるくらいなら、その労力を他のトレーニングに活用した方がはるかに効率的です。
西澤さんのケースの場合、私の感覚では、コーチと監督の見識と人間性を疑います。
怒鳴ってバイクを倒すこともあったようですから、何もかもが度を越していたとみて間違いないでしょう。
この陸上部は文書で「選手の夢をかなえるため、ケガや故障防止を目的として…」と回答しています。
とてもではありませんが、ケガや故障防止を目的にしているとは思えません。

こうした過度な体重管理は、高校の駅伝部にも見られるようです。
「軽い方が速く走れる」…そう考えている指導者が多いのが現状なのでしょう。
しかしこの考え方は、最大酸素摂取量からの視点でしかありません。
もっと旧体質な指導者であれば、軽い方が足への負担が少ないに決まっている、程度の考えかもしれません。
アスリートであれば、食べ物に気を使い、暴飲暴食は避けるべきですが、何よりも大事なことは、「走った分だけしっかり栄養を取ること」です。
激しい運動をしていながら必要最低限のカロリーしか摂取していないと、破壊された骨や筋肉の修復が間に合わなくなります。
その状態が長く続くとホルモンバランスにも影響します。
月経不順や無月経、疲労骨折などの怪我、情緒不安定などになりやすく、あまり良い状態とは言えません。
女子マラソンの世界記録保持者、ポーラ・ラドクリフは著書の中でこう言っています。
生理が始まるには体脂肪が15~17%は必要だと主張する栄養士もいますが、私は体脂肪12~13%程度できちんと生理があります。その理由を解く新しい考えかたは、重要なのは体脂肪の絶対量ではなく、カロリーバランスだとするものです。

この考え方に私も賛成です。
体重管理をするのであれば、むしろ厳しいトレーニングで体脂肪率が低くなりすぎていないかを気にするべきでしょう。

以下、少し特殊な例です。
高橋尚子さんがシドニー五輪でマラソンを走った時の体脂肪率は4%だったそうです。
しかし、食べないで痩せるといった食事制限がありません。
むしろたくさん食べることを指示されています。
栄養面の管理はすごく厳しかったです。栄養士さんの指導で、ひじき、レバー、納豆はほぼ毎日食べていました。納豆は朝と夜で2パックずつ、ひじきもボウル1杯分、それに朝から肉か魚も出ますし、野菜もがっつり食べて。その上で「5㎏痩せなさい」とか言われるから、理不尽なんですけど…

高橋さんの言葉からは、たくさん食べて走って痩せたことが見えてきます。
高橋さんの場合は、目標レースに向けて半年かけて徐々に体重を落としていきます。
目標とする体重は設定していたようですが、体脂肪率4%を目指していたわけではないようです。
一日最低でも40㎞は走っていたそうですから、4%という数値はたくさん食べてたくさん走った結果なのでしょう。
極端ではありますが、しっかり食べていれば、大きな怪我もなくレースを迎えることが出来た例だと言えます。

その高橋さんでも、レースが終わると体を休め7㎏ぐらい体重が増えたと語っています。
常に低い体脂肪率を維持していたわけではないのです。
五輪後、休んで体重が増えた高橋さんを「太りすぎ」とメディアは大きく報じました。
「金メダルを取って浮かれて練習してない」とバッシングしていた陸上関係者もいました。
そうした人たちが今もなお、指導者であることも旧い体質が残っている原因なのかもしれません。

※2019年に書いたものを修正加筆した記事です。


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